障害年金は、病気やけがで働くことや日常生活に大きな制約がある人に対し、生活を支える目的で支給される公的年金なのですが、今回、その実務を担う日本年金機構が「支給の可否」を判断する際の医師の判定結果の一部を破棄し、別の医師に判定を依頼していたことが明らかになり、制度への信頼を揺るがしかねない事態となっています。
厚生労働省は1月6日、残存する約3カ月分の記録の確認など調査を開始しているのですが、破棄の判断基準や手順のマニュアルは「現時点では確認できない」としています。
問題となるのは、年金機構が支給可否の判定を医師に委託しており、その医師の判定を機構職員が「おかしい」と判断し、判定記録をシュレッダーで廃棄、その判定がなかったこととし、別の医師へやり直しが依頼されていたようです。
問題となるのは、制度上、職員が医師の判定を覆す権限はなく、厚労省は会見では「形式的な不備や疑義があると職員が判断した場合に、別医師の判定へ回す事例があることは確認できた」との趣旨を述べているようです。
昨年秋以降の記録は廃棄されず残っており、今後、実際の運用や件数、時期の確認が進められる見込みとなっています。
なぜ問題なのか
手続の透明性と証拠保全の欠如も甚だしく、判定の「やり直し」自体が即座に不当とは言えないとはいえ、元の判定記録を破棄してしまえば、なぜやり直したのか、どの基準で疑義をかけたのか、後から検証することができず、行政判断の検証可能性を自ら損なう行為となります。
そもそも職員に医師判定を覆す権限がないにもかかわらず、実質的に判定の影響を消す(破棄する)ことは、制度の想定を超えた運用であり、仮に「形式的な不備の是正」のための再判定が許容されるとしても、元データの保全と、再判定の理由・プロセスの記録が不可欠。
この判定のやり直しが不支給へつながった可能性や、審査遅延を招いた可能性もあり、記録が破棄されている限り、個々の不利益の立証が困難となり、最も弱い立場にある当事者の救済を難しくするという構造的問題であり、年金制度は長期的な社会的合意で成り立っていることから「医師判定という専門性への信頼」と」行政の中立・公正への信頼」が毀損されれば、将来の制度運営、受給者・納付者の心理にも悪影響を及ぼしてしまいます。
影響となりそうなリスク
- 行政手続法や公文書管理の観点からの適法性の検証
- 内部統制の不備(ダブルチェック・記録管理・監査の不足)の露呈
- 申請者・受給者の不服申立て・訴訟リスクの増加
- 判定の外注(委託)スキーム全体の見直し(契約、基準、監督方法)
この問題の核心は「スピードや現場裁量」と「検証可能性・公正さ」のバランスが崩れていたことにあり、現場には、判定のばらつきや形式不備を是正したいという善意もあったのかもしれませんが、公益性の高い制度運営においては、例え善意でも「記録の破棄」という手段は許容されることはなく、手続の正当性は「後から第三者が検証できること」によってのみ担保されるべきものです。
また、判定のやり直しが「不支給に誘導するため」だったのか、「単に品質管理のため」だったのかは、今後の調査で明らかにすべきであり、重要なのは、どちらにしても記録を残すこと「理由、誰が決めたか、どの基準か、結果どうなったか」を、一貫して残すことが重要で、ここを誤ると、結果の公平性だけでなく、過程の公正さ(プロセス・ジャスティス)が失われることになります。
障害年金は「生活の最後の土台」の一つであり、支給の可否は当事者の人生に直結しているものだからこそ、手続の公正と記録の保全は、現場の効率より一段高い優先順位で守られるべきで、今回の調査が、透明性と人権配慮の観点から、運用の再構築につながることを期待します。



