投稿者: 蒼鷹

  • iDeCoが70歳まで使える時代へ 「70歳まで積み立てるべき」ではない理由

    iDeCoが70歳まで使える時代へ 「70歳まで積み立てるべき」ではない理由

    老後のお金を準備する期間を「60歳まで」で区切る考え方が、少しずつ変わってきています。

    2026年12月1日から、iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入可能年齢が引き上げられます。

    60歳以上70歳未満についても、一定の条件を満たせばiDeCoへの加入・継続拠出が可能になり、厚生労働省は、公的年金への上乗せとして私的年金に加入してきた人が、60歳から70歳にかけても老後の資産形成を続けられるようにすることを改正の目的としています。

    ただ、この変更を「iDeCoを70歳まで積み立てられるようになった」とだけで理解するのではなく、重要なのは、70歳まで積み立てることが推奨されたわけではなく、老後資金を準備する期間の選択肢が広がったとみた方が良さそうです。

    60歳を過ぎた後のiDeCoの選択肢が広がる

    これまでのiDeCoも、すべての人が60歳で加入資格を失う制度だったわけではなく、2022年5月からは、会社員・公務員などの国民年金第2号被保険者について、60歳以上65歳未満でも加入できるようになっていました。

    また、国民年金に任意加入している60歳以上65歳未満の人も対象となり、公的年金の加入期間が120月に満たないなどのケースでは、65歳以上でも加入できる場合があります。

    今回の改正では、そこからさらに対象が広がり、2026年12月1日からは、60歳以上70歳未満で、現行制度では加入できない人のうち、iDeCo加入者、運用指図者、企業年金からiDeCoへ資産を移換する人など、一定の条件を満たす人が加入・継続拠出できるようになります。

    老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していないことなども条件となり、さらに、施行から3年間は経過措置があり、上記の条件に該当しない60歳以上70歳未満の人も加入できるようになっています。

    つまり今回の変更は、「60歳でiDeCoが終わる」という単純な制度から、「60歳を過ぎた後も、働き方やこれまでの加入状況に応じて資産形成を続けやすくする」方向への見直されたということ。

    なぜ「70歳未満」まで広げるのか

    ここで考えたいのが、老後資金を準備する期間を年齢だけで決めてよいのかということで、60歳で仕事を辞める人と、60代後半まで働く人では、お金の流れが異なります。

    働いて収入を得る期間が長ければ、資産を取り崩し始める時期も変わるでしょうし、60歳以降も働くつもりがあっても、その期間の収入や生活費がどうなるかは人によって異なっています。

    今回の制度改正は、こうした違いを前提に、60歳を過ぎても老後の資産形成を続けられるように枠を広げるもので、厚生労働省も、今回の私的年金制度の見直しについて、働き方やライフスタイルの多様化、高齢期の就労拡大、老後の多様なニーズへの対応を背景として挙げています。

    これにより、老後資金の準備を特定の年齢までに終わらせるという一律の発想が、現実の働き方とは合いにくくなっていることがわかりますね。

    ただし「70歳まで積み立てるほど得」とは限らない

    ここは制度変更を考えるうえで重要なことは、iDeCoの加入可能年齢が70歳未満まで広がったからといって、全員が70歳まで掛金を払い続ける必要があるわけではないですし、すでに老後に必要な資金を十分確保できている人なら、追加で資産形成を続ける必要性は低いでしょう。

    一方、60代になっても働いていて、老後資金の準備を続けたい人にとっては、今回の変更によって選択肢が増えるわけで、年齢だけを見て「60歳だから終了」「70歳まで続ける」という判断をするのではなく、働いている期間、収入、生活費、すでに持っている資産を合わせて考える必要があります。

    今回の改正は、その判断をするための時間を延ばした制度変更と考えたほうが分かりやすいかもしれません。

    「積み立てられる額」も変わる

    2026年12月1日からは、加入可能年齢だけでなく、iDeCoなどの拠出限度額も引き上げられ、国民年金第2号被保険者のiDeCoについては、企業年金等との共通の拠出限度額が月額6.2万円に。

    ただし、企業年金等に加入している場合、その掛金相当額や企業型DCの掛金額などを差し引いて計算するため、誰もがiDeCoだけで月6.2万円を拠出できるわけではありません。

    国民年金第1号被保険者については、iDeCoと国民年金基金を合わせた拠出限度額が月額7.5万円に引き上げられるのですが「上限まで使ったほうがいい」という話でもなく、制度側が用意する枠が広がったことで、老後資金をどの程度、どの期間で準備するかを個人ごとに考えやすくなったと見るほうが実態に近い。

    iDeCoは、公的年金に上乗せして老後の資産形成を行う私的年金であり、今回の改正では、加入可能年齢と拠出限度額の両方が見直されました。

    「何歳まで働くか」で老後資金の作り方も変わる

    今回のiDeCo改正から考えたいのは、老後資金を作る方法そのものより、いつまで働き、いつから資産を使うのかという順番で、60歳で完全に仕事を終えるなら、そこから資産を取り崩していくことになりますし、65歳、あるいはそれ以降も働くなら、資産を取り崩す時期を後ろにずらすことができるでしょうs、その場合、60代の収入を得ながら私的年金による資産形成を続けるという選択肢が意味を持ってきます。

    もちろん、実際にどの選択が適しているかは、年金額や収入、資産、生活費などによって変わってきますから、「70歳未満まで」という数字だけを見て判断するのは適切ではありません。

    これまで老後資金について考えるとき「60歳までにいくら貯めるか」という発想が中心になっていたのですが、これからは「何歳まで働くのか」「いつから資産を使うのか」「その間にどこまで資産形成を続けるのか」という時間軸まで含めて考える必要があります。

    iDeCoの「70歳未満」という変更は、老後資金のゴールが70歳になったという話ではなく、60歳という年齢だけで資産形成の終点を決める必要がなくなってきたことに意味があります。

  • 在職老齢年金は月65万円基準、給与と厚生年金を合算

    在職老齢年金は月65万円基準、給与と厚生年金を合算

    働きながら老齢厚生年金を受け取る人の支給停止基準が、2026年4月から月51万円から65万円へ引き上げられました。

    この65万円は2026年度の基準額で、毎年度、賃金の変動に応じて改定されるようで、給与が65万円を超えた時点で年金が減る仕組みではなく、給与と老齢厚生年金の合計で判定されます。

    対象は、原則として60歳以降も厚生年金の適用事業所で働き、老齢厚生年金を受け取る人で、老齢基礎年金は支給調整の対象から外れ、全額支給されます。

    計算に使われる給与は、税金や社会保険料を差し引く前の標準報酬月額に、直近1年間の標準賞与額を12で割った金額を加えたもので、毎月の給与だけを見ると65万円以下でも、賞与を月額換算した分によっては基準を超えるケースも出てきます。

    給与相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が65万円以下なら、老齢厚生年金は全額支給されるのですが、65万円を超えた場合は、超過額の半分が老齢厚生年金から支給停止されることに。

    たとえば、標準報酬月額が41万円、直近1年間の標準賞与額が144万円、老齢厚生年金の基本月額が15万円の場合、賞与の月額換算は12万円となります。

    合計は68万円で、基準を3万円超えることになり、支給停止額は超過額の半分に当たる1万5000円となります。

    標準報酬月額24万円、直近1年間の標準賞与額42万円、老齢厚生年金の基本月額10万円の例では、賞与の月額換算を含めた合計は37万5000円となり、こちらの場合は65万円以下なので、老齢厚生年金10万円は全額支給されることになります。

    改正前は、同じ収入や年金額でも支給停止となるケースがあったのですが、基準の引き上げによって、働く時間や収入を増やした際に年金が減る対象は縮小しています。

    「65万円の壁」を自分の月給だけと比べると、判定を見誤りやすいので、確認する数字は、賞与を含む給与相当額と老齢厚生年金の合計で計算するようにしてください。


    厚生労働省によれば、65歳以降も働きながら年金を受け取っている人は約308万人(2022年度末時点)存在しており、このうち老齢厚生年金が支給停止(減額)になっていた人は約50万人で、割合にすると全体の6人に1人程度でした。

    しかし、今回65万円への引き上げにより、そのうちの約20万人が全額受給できるようになる見込みということなので、改正後に支給停止の対象として残るのは約30万人程度となります。

    つまり65歳以上の就労受給者全体の1割前後まで縮小する計算になります。

    現実をみると「働きながら年金をもらっている人」全体で見れば、実際に減額されるのは高めの給与をもらい続けている一部の人に限られていて、感覚的にも実態的にも「対象者は少数派」であり、この内容によって自分を卑下する必要はありません。

  • NISAとiDeCoをどう使い分ける? 政策動向から考える、家計の資産配分アプローチ

    NISAとiDeCoをどう使い分ける? 政策動向から考える、家計の資産配分アプローチ

    新NISAのスタート以降、資産形成といえば「まずはNISA口座を開設して積立を始めること」が広く知られる選択肢となりました。

    手軽に始められ、必要に応じて売却でき、運用益が非課税となる柔軟性は、投資に対するハードルを大きく下げたと言えます。

    しかし最近では、政府の金融戦略や成長戦略の議論において、NISAの普及・利便性向上に加え、確定拠出年金(DCやiDeCo)の拡充や制度改革も重視する動きが目立ち始めています。

    この変化は、NISAによる資産形成の促進に加え、より長期的な老後資産形成を支えるDCやiDeCoの機能も強化しようとする動きとなっているるのですが、制度の優先順位をどう捉えるべきかという新たな課題が浮かび上がっています。

    「とりあえずNISA」の次にやってくる、確定拠出年金(iDeCo)重視の波

    新NISAの普及によって、多くの人が資産運用を選択肢のひとつとして取り入れる環境が広がっています。

    その一方で、NISAは必要に応じて売却できるため、老後資金として長期運用する場合には、途中で取り崩す可能性も考慮する必要があります。

    政府が成長戦略等において、DCやiDeCoの機能強化を進める背景には、老後に向けた資産形成を促進するという政策目的があり、拠出時に加入者本人の掛金が全額所得控除の対象となるiDeCoは、長期的な老後資産形成を支援する税制優遇を備えた仕組みといえます。

    政策においてDCやiDeCoの機能強化も進められていることは、「NISAさえやっていれば十分」と思うのではなく、自身のライフプランに合わせた制度の組み合わせを考える必要性を示しています。

    「引き出せない不便さ」が持つ、長期形成における逆説的な強み

    iDeCoをはじめとする確定拠出年金を利用する際の大きな注意点の一つは、原則60歳以降の受給年齢まで資金を引き出せないという拘束力にあり、途中で自由に使えないことは、不測の事態に備えたい現役世代にとって心理的なハードルとなりがち。

    しかし、この「自由度の低さ」は、老後資金の形成においては強制力という側面を持ち、NISAと異なり原則として60歳以降の受給年齢まで資産を引き出せないため、老後資金を途中の消費に回しにくくする効果があります。

    資産形成におけるリスクは、運用の変動リスクだけではありません。

    「途中で使ってしまうリスク」をどうコントロールするかも重要になり、流動性の高いNISAと、資金拘束のあるiDeCoという異なる性質を持つ制度をどう組み合わせるかが、資産形成を考えるうえでのポイントになります。

    資金を「柔軟性」と「拘束力」で資産配分

    では、現役世代は、NISAとiDeCo(DC)へどのように資金を配分すべきでしょうか?

    単に「どちらが得か」という損益計算だけで比較するのではなく、資金の「使用目的」と「必要となる時期」に応じた分け方が有効となります。

    • 柔軟性優先ゾーン(NISA等を検討)
      60歳以前に使う可能性があり、取り出しの自由度を確保したい資金。ただし、住宅購入、教育資金、予備費など使う時期や金額が決まっている資金については、元本割れの可能性も踏まえて預貯金を含めた方法を検討する
    • 拘束力優先ゾーン(iDeCo/DC活用)
      老後の生活費など、60歳以降まで手をつけないことを前提とし、所得控除の税制メリットも考慮して積み立てる資金

    手元の資金を一括りに「投資に回すお金」として扱うのではなく、資金の出口に合わせた制度選択を行うことが重要で、まずは生活防衛資金を確保し、中期的な使途については必要となる時期や価格変動リスクを踏まえ、NISA活用の可否を判断し、そのうえで、老後専用の資金としてiDeCoの拠出額を検討するという優先順位を設けることが、無理のない計画につながります。

    資産形成において、NISAに加え、iDeCoの活用も注目される背景には、制度の優劣ではなく、個人のライフステージや目的に応じた役割分担の必要性があります。

    重要なのは、話題の制度に飛びつくことではなく、自らの資産を「柔軟に使うお金」と「老後まで守り育てるお金」に切り分け、それぞれに適した制度を配置すること。

    政策の方向性が示す変化をきっかけに、ご自身の資産配分が目的に合致しているかを見直すことが、持続可能なマネープランの構築へとつながっていきます。

  • 年金は1.9〜2.0%増、物価3.2%で実質目減り

    年金は1.9〜2.0%増、物価3.2%で実質目減り

    2026年度の公的年金額は、国民年金で前年度比1.9%、厚生年金の報酬比例部分で2.0%引き上げられたのですが、それでも生活が楽になったと感じにくいのは、年金以上に物価が上がったため。

    昭和31年4月2日以後生まれの人が受け取る老齢基礎年金の満額は、月7万608円で、前年度から月1300円増え、昭和31年4月1日以前生まれの人は月7万408円となっています。

    厚生年金の標準的なモデル額は、夫婦2人分の老齢基礎年金を含めて月23万7279円となり前年度より4495円増えているのですが、これは平均標準報酬が賞与を含む月額換算で45万5000円だった人が40年間働いた場合のモデルで、すべての夫婦がこの金額を受け取れるわけではありません。

    改定額を計算する際の物価変動率は3.2%で、年金額の上昇率は1.9~2.0%にとどまるため、額面は増えても、同じ年金で買える商品やサービスの量は減る計算となっています。

    年金額は賃金や物価の変動に応じて改定され、2026年度は物価変動率3.2%が名目手取り賃金変動率2.1%を上回ったため、2.1%を基に改定され、さらに「マクロ経済スライド」による調整が行われ、国民年金(基礎年金)は1.9%、厚生年金の報酬比例部分は2.0%の引き上げとなりました。

    年金額の伸びが物価上昇率を下回ったのは計算ミスではなく、こうした制度上の改定ルールを反映した結果です。

    年金は原則として偶数月の15日に、直前2カ月分がまとめて支払われることになっており、次回は2026年10月15日に支払われ、8月分と9月分が対象になります。

    月1300円増えていても、実質的な購買力は下がっているわけで、家計で確認すべきなのは振込額だけではなく、食費や光熱費、日用品など、同じ期間に支出がどれだけ増えたかであり、実質的には暮らしがさらに厳しくなっている状況だということを確認しておきましょう。

  • 厚生年金「月20万円以上」はわずか18.8% 平均15万289円で見える老後資金の不足と備え方

    厚生年金「月20万円以上」はわずか18.8% 平均15万289円で見える老後資金の不足と備え方

    厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金(国民年金部分を含む)の平均年金月額は全体で15万289円となっていて、男性は16万9967円、女性は11万1413円で、男女差は5万8554円になっています。

    この差は、2階部分にあたる厚生年金の加入期間や納付保険料額が個人差として反映される仕組みによるもので、日本の公的年金は、1階部分の国民年金と、2階部分の厚生年金による2階建て構造になっていて、国民年金保険料は所得にかかわらず一律の月額1万7920円(2026年度)、40年間すべて納付した場合の満額は月額7万608円となります。

    厚生年金は会社員や公務員、要件を満たすパートタイマーなどが上乗せで加入し、保険料は収入に応じて決まり、勤務先と本人が折半するもの。

    同じ統計では、公的年金収入が「月20万円以上」に達している厚生年金受給権者は18.8%にとどまり、81.2%は20万円未満となっていて、1万円刻みの受給額分布を見ると、最も多いのは10万円以上〜11万円未満の層で111万2828人、16万円台から19万円台にかけても100万人前後の層が並び、20万円以上〜21万円未満は85万3591人にまで減ります。

    平均15万289円という数字は、こうした分布の中心に近い位置にあり、平均額の受給者が「月20万円」に届くには月4万9711円が不足しています。

    65歳からの受給期間で単純計算すると、10年で約596万5000円、15年で約894万7000円、20年で約1193万円、25年では約1491万3000円の累計不足になり、これは受給額が改定されない前提の試算とはいえ、退職金だけで埋めるには大きい規模といえる金額になっています。

    年金への依存度は世帯の所得構成にも表れていて、2025年国民生活基礎調査によれば、高齢者世帯の1世帯当たり平均総所得は336万1000円で、前年の314万8000円から6.8%増えているものの、それでも全世帯平均575万2000円の約6割にとどまっていて、所得の内訳は公的年金・恩給が61.3%、稼働所得25.9%、財産所得5.8%で、稼働所得が74.1%を占める全世帯とは収入の柱が逆転しています。

    総所得のすべてが公的年金・恩給という世帯は41.3%にのぼり、80%以上を年金に頼る世帯は合計58.4%を占めています。

    生活意識調査では、高齢者世帯の52.1%が「大変苦しい」または「やや苦しい」と回答しており、「普通」が41.7%、「ゆとりがある」と回答したのはたったの6.2%に。

    世帯構成を見ると、65歳以上の者がいる世帯のうち単独世帯が33.8%、夫婦のみ世帯が32.0%で、合わせて65.8%を占め、三世代世帯は1986年の44.8%から5.8%まで減少しており、約40年で8分の1程度まで縮小しており、家計を分け合う相手がいない世帯が、高齢者世帯の中で多数派になっています。

    受給額分布を見る限り、平均を下回っていること自体はまったく珍しいことではなく、平均値と自分の見込額を単純に比較して卑下してしまうよりも、自分や配偶者が必要とする生活費を基準に今後のライフプランを考えるほうが建設的で、他人と比べる前に自分自身の生き方を見つめ直してみましょう。

    その手順として、まず「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で自分と配偶者の見込額を世帯単位で確認し、不足額を把握しておきましょう。

    平均総所得336万1000円のうち、年金が61.3%を占める一方、収入のすべてが年金という世帯が41.3%も存在しており、「平均」だけを見て老後家計を判断すると実態を誤解しやすくなりがち。

    平均額や世帯平均所得は、あくまで分布の中の一点にすぎず、自分と配偶者の年金見込額をねんきんネットなどで確認し、支出との差を具体的な金額として把握したうえで、どこまでを積立で補うかを検討しておくべきでしょう。

  • 60代・70代が申請で増やせるお金と減らせる負担。年金上乗せ給付と天引き保険料の基本

    60代・70代が申請で増やせるお金と減らせる負担。年金上乗せ給付と天引き保険料の基本

    60代・70代の家計は、公的年金という収入の柱に加え、現役時代に築いた貯蓄をどう組み合わせるかで安定度が変わってきます。

    同じ年金額でも、介護保険料や医療保険料、住民税などの天引き額によって、手元に残るお金は大きく違ってきますし、65歳以上が受け取れる公的給付金の中には、条件を満たしていても自分から申請しなければ1円も受け取れないものが複数あります。

    ここでは、60代夫婦世帯の平均貯蓄額や介護保険料の水準を押さえつつ、加給年金や年金生活者支援給付金など「年金に上乗せされるお金」と、再就職手当・高年齢雇用継続給付・高年齢求職者給付金といった「雇用保険から受け取れるお金」を確認しておきましょう。

    60代夫婦世帯の貯蓄と「額面」と「手取り」のギャップ

    金融経済教育推進機構(J-FLEC)の家計調査によれば、60代・二人以上世帯の金融資産保有額は平均2683万円で、中央値1400万円。

    2000万円以上を持つ世帯が4割近くある一方で、貯蓄がない世帯も1割強あり、老後資金の状況には大きなばらつきがあります。

    平均値が一部の高資産世帯に引き上げられていることを踏まえると、多くの世帯にとって実感に近い水準は中央値の1400万円前後といえます。

    老後の家計は、こうした貯蓄と公的年金を組み合わせて成り立ちますが、年金の通知書に記載された「支給額」と、実際の振込額には大きな差があり、介護保険料や医療保険料、住民税などが天引きされてから口座に振り込まれる金額は驚くほど少なく感じるはず。

    この差額がどの保険料や税金なのかを把握していないと「思っていたより少ない」で終わってしまいますし、家計全体の見通しを立てにくくなります。

    老後資金を考えるうえで大切なのは、年金の額面だけを見ないことで、社会保険料や税金を差し引いた手取り額をもとに家計を考え、あわせて、条件を満たせば受け取れる給付金や負担を軽減できる制度がないかも確認しておきたいところです。

    そうすると、額面だけではわからない実際の家計が見えやすくなります。

    65歳以上が申請で増やせる2つの「年金上乗せ」

    老齢年金の受給が始まったあとも、条件によっては「年金に上乗せされるお金」を受け取ることができます。

    その代表的なのが「加給年金」と「年金生活者支援給付金」で、いずれも自動的に支給されるわけではなく、条件を満たしていても自ら申請しなければ受け取ることはできません。

    「加給年金」は、厚生年金に20年以上加入していた人が、65歳到達時点などで「年下の配偶者」や「一定の年齢・条件までの子ども」を扶養している場合に、老齢厚生年金へ上乗せされる仕組みで、配偶者分の加給年金額は2026年度で年24万3800円。

    1人目・2人目の子どもにも同額、3人目以降の子どもには年8万1300円が加算されます。

    さらに、生年月日に応じて3万6000円から17万9900円の特別加算が配偶者分に上乗せされ、昭和18年4月2日以後生まれの人では年17万9900円と最も手厚くなっています。

    ただし、配偶者が老齢厚生年金(加入期間20年以上)や退職共済年金の受給権を持っている場合、あるいは障害年金等を受給している場合には、配偶者加給年金額が支給停止されます。

    実際に受け取っていなくても、受給権があれば停止の対象となり、また、配偶者が65歳になると加給年金は終了しますが、要件を満たせば、配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」として引き継がれる仕組みもあります。

    年齢差がある夫婦ほど受け取れる総額が大きくなりやすく、その分、申請漏れの影響も大きくなります。

    もう一つの年金上乗せが「老齢年金生活者支援給付金」で、これは老齢基礎年金の受給者のうち、所得や世帯の状況が一定基準以下にある人の生活を底上げするための給付金で、年金本体とは別の法律に基づいて支給されます。

    対象となるのは、65歳以上で老齢基礎年金を受給していること、同じ世帯の全員が市町村民税非課税であること、前年の公的年金等収入とその他所得の合計が定められた上限を下回っていることなど、複数の条件をすべて満たす人。

    2026年度の老齢年金生活者支援給付金の基準額は月5620円で、前年度から3.2%増額されていて、この基準額をもとに、保険料納付済期間と免除期間に応じて給付額が計算されます。

    保険料納付済期間については「5620円×納付済月数÷480」、免除期間については別途定められた額を用いて計算し、対象世帯には緑色や薄緑色、薄橙色の封筒が届くことがあるため、届いた場合は中身を確認しておく必要があります。

    60歳以降の就労で活用できる3つの雇用保険給付

    長寿化が進むなか、65歳前後の就業率は男性・女性ともに高い水準にあり、60歳以降は賃金水準が下がるケースも多く、公的年金と就労収入、雇用保険の給付をどう組み合わせるかが老後の生活を左右します。

    1つ目は再就職手当で、失業から再就職、あるいは事業開始までの期間が短いほど支給額が大きくなるよう設計された手当で、雇用保険の基本手当を受給する資格がある65歳未満が対象で、雇用保険の被保険者として再就職する、または自ら事業主となって被保険者を雇用するなどの条件を満たし、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っている場合に支給されます。

    支給残日数が所定給付日数の3分の1以上なら残日数の60%、3分の2以上なら残日数の70%が支給率の目安です。

    再就職後6カ月以上継続して働き、再就職先での賃金が離職前より少ない場合には、「就業促進定着手当」が別途支給される仕組みもあります。

    2つ目は高年齢雇用継続給付で、60歳以上65歳未満で、雇用保険の被保険者期間が通算5年以上ある人が対象となります。

    60歳到達時と比べて賃金が75%未満に下がった状態で働き続ける場合、条件を満たせば賃金の一定割合が給付され、2025年4月1日以降に支給要件を満たした人の給付率は原則として賃金の10%が上限で、2025年3月31日以前に要件を満たしていた場合は15%が上限となります。

    老齢年金を受給しながら厚生年金に加入してこの給付を受ける場合には、在職による年金の支給停止に加え、標準報酬月額の一部(最大4%または6%)に相当する金額も支給停止の対象となります。

    年金と給付金を同時に受ける場合は、この関係も確認が必要です。

    3つ目は高年齢求職者給付金で、65歳以上で雇用保険に加入していた人が失業した際に支給される給付金で、「高年齢被保険者」が対象となります。

    離職日前の1年間に被保険者期間が通算6カ月以上あること、就職する意思と能力があり、積極的に求職活動をしているにもかかわらず就職できない状態であることなどが条件となっていて、被保険者だった期間が1年未満の場合は基本手当の日額の30日分、1年以上の場合は50日分が一括で支給されます。65歳未満の失業手当は4週間ごとの認定を経て分割支給されるため、受け取り方が異なります。生活設計では支給時期と金額も確認しておく必要があります。

    介護保険料6225円と年金からの天引き条件

    65歳以上になると、介護保険料の負担が発生し、厚生労働省が取りまとめた第9期(令和6年度〜令和8年度)の介護保険事業計画では、第1号被保険者(65歳以上)が負担する介護保険料の全国加重平均が月6225円と公表されています。

    前期にあたる第8期の月6014円から211円、率にして約3.5%の増加で、月額を12カ月分に換算すると年間7万4700円となり、第8期の年間7万2168円との差額は2532円です。

    ここで注意したいのは、6225円が「令和8年度の単年度額」ではないこと。

    令和6年度から令和8年度までをひとまとめにした計画期間の全国加重平均となっており、実際の負担額は居住する市区町村が定める保険料と、本人および世帯の所得段階によって決まるため、同じ年金額でも住む自治体によって月々の保険料は変わってきます。

    介護保険料が年金から天引きされるかどうかは、日本年金機構が示す条件によって決まります。

    介護保険料の場合、対象は65歳以上で、老齢・退職・障害・死亡を支給事由とする公的年金を受給しており、年間の受給額が18万円以上ある人で、国民健康保険料(税)や後期高齢者医療保険料、住民税および森林環境税についても、65歳以上で年間の年金受給額が18万円以上という条件が共通しています。

    さらに、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料は、介護保険料と合計した金額が年金額の2分の1を超えない場合に限り、年金から特別徴収(天引き)されます。

    負担が重い人ほど天引きの対象から外れ、納付書や口座振替で別途納める形になる仕組みで、天引きされていないからといって支払い義務がなくなるわけではありません。

    振込通知書の内訳とあわせて、自治体から届く納付書も確認しておく必要があります。

    老後資金を「手取り」で考えるための確認ポイント

    60代以降の家計では、同世代の平均や中央値と比べて自分の貯蓄・収入が多いか少ないかだけでなく、「手取りベースで何年分の生活費を用意できているか」という視点が必要です。

    そのためには、年金の支給額だけでなく、差し引かれる介護保険料や医療保険料、住民税なども把握しておかなければなりません。

    年金の振込通知書を見ながら「どの保険料・税金がどれくらい差し引かれているか」を確認しておくと、毎月の固定支出も見えやすくなります。

    一方、条件を満たしていれば受け取れる可能性があるお金もあり、加給年金や振替加算は、厚生年金加入期間や夫婦の年齢差、配偶者の年金受給権の有無によって受給の可否と金額が変わります。

    年金生活者支援給付金では、世帯全員が住民税非課税かどうかや、前年の年金・所得水準がカギになります。

    就労を続けるなら、再就職手当や高年齢雇用継続給付、高年齢求職者給付金など、雇用保険の給付条件も確認しておきたいところで、退職や再就職のタイミングを考える際の判断材料になります。

    こうした制度は、「対象になれば自動的にすべての案内が届く」とは限らず、年齢到達、退職、再就職、配偶者の年齢が節目を迎えたときなどに、年金事務所やハローワーク、市区町村窓口へ「自分に関係する制度があるか」を問い合わせることも、申請漏れを防ぐ方法の一つとなります。

    老後資金を見るときは、平均値や一般論だけでは実際の家計はわかりません。

    年金から何が差し引かれ、手元にいくら残るのか。そのうえで利用できる制度があるのか。

    自分の数字に置き換えて確認することが、現実的な老後資金の把握につながります。

  • 60歳は「引退」ではない時代へ 就業率と貯蓄格差から考えるセカンドライフ

    60歳は「引退」ではない時代へ 就業率と貯蓄格差から考えるセカンドライフ

    60歳を迎えることは、もはや「現役引退」ではなく、人生100年時代の折り返し点になりつつあります。

    最新の公的統計では、日本の人口を100人に置き換えると、65歳以上が29.3人、老齢年金を受け取っている人が27.9人を占めています。

    その一方で、60代前半の男性は8割以上、女性も6割以上が就業していて、「働けるうちは働きたい」と考える人が多く、2026年に還暦を迎える1966年生まれの調査を紐解くと、貯蓄額や投資額の分布にくっきりとした二極化が見えています。


    60歳は「引退」ではなく長いセカンドライフの起点へ

    簡易生命表によれば、60歳時点の平均余命は男性で約24年、女性で約29年となっており、60歳から数えても男性は80代半ば、女性は90歳近くまで生きることが平均的な寿命となり、「定年=余生」という従来の考え方は現実と大きくかけ離れつつあります。

    日本の人口構成を「人口100人」で見たとき、65歳以上は29.3人、そのうち75歳以上が16.8人という数字は、高齢期が社会のごく一部ではなく、大きな塊として存在していることを示していて、老齢年金の受給者は27.9人であり、年金制度が多くの人の家計を支える一方、働いて保険料を納める側も必要となっています。

    同じ100人のうち、仕事についている人は54.8人で、そのうち雇われて働く人が49.5人、自営業者が4.1人とされ、週35時間未満で働く人が18.7人もいることから、フルタイムだけでなく、パートタイムや短時間就業も広く選択されていて、寿命が伸びたことで、60歳以降の期間は「老後」というより「第二の現役期間」として捉え直す必要も出てきています

    還暦世代の就業率が高まる背景と「働けるうちは働きたい」意識

    内閣府の高齢社会白書によれば、労働力人口に占める65歳以上の割合は13.6%と、長期的に上昇傾向が続いており、年齢階級別に就業率を見ると、60〜64歳の男性は84.0%、女性は65.0%が仕事を持っており、還暦を超えてもその多くが働いています。

    こうした数字の背景には、複数の要因が重なっており、ひとつは、公的年金だけでは生活を賄いにくい家計構造の変化で、物価上昇や医療費・介護費の負担増を意識すると、「年金」だけでは賄いきれず、「就労収入」で生活基盤を支えたいという発想になりやすい。

    また、健康状態の改善により60代前半でも体力的に働ける人が増えていることもあり、さらには企業側も人手不足を補うためにシニア層の就業機会を広げています。

    就業意欲に関する調査では、現在収入のある仕事をしている60歳以上のうち、およそ3割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと答えており、「70歳くらいまで」など、より高い年齢までを目安とする回答も含めると、約8割が高齢期にも仕事を続ける意向を持っています。

    収入面だけでなく、社会とのつながりや生きがいを保つうえでも、就労を続けることが重要だと考える人が多い世代でもあり、日本の長寿命を考えると「60歳で定年」というのは早すぎるといってもいいでしょう。

    平均1343万円・中央値300万円に表れる還暦世代の貯蓄二極化

    一方で、同じ還暦世代でも手元資産の状況には大きな差があり、PGF生命が1966年生まれの男女2000人を対象に行った調査では、現時点での貯蓄金額(配偶者がいる場合は夫婦2人分)の平均は1343万円と比較的高額となっているのですが、中央値は300万円にとどまり、分布の偏りが明確に現れています。

    貯蓄額別に見ると、「100万円未満」が31.8%と最も多く、「500万円未満」を合計すると54.3%がこの範囲に入り、その一方で、「2000万円以上」の貯蓄を持つ層も20.1%存在し、還暦時点での備えは「少額〜ほとんどない層」と「十分な資産を保有する層」にはっきりと分かれています。

    この二極化は、老後資金の準備行動や就労スタイルの違いを通じ、セカンドライフの選択肢にも直結し、十分な貯蓄がない場合、年金に上乗せする収入を得るために、長く働き続ける必要性が高まっています。

    その一方で、まとまった資産を保有している世帯は、仕事を続ける理由が収入確保だけではなく、やりがいや社会参加の側面へシフトしやすくなっているようです。

    投資にみ出す層と踏み出さない層でさらに広がる差

    貯蓄に加え、株式や投資信託などの資産運用への関わり方にもはっきりとした違いが見られ、還暦世代のうち、投資を行っていない人は53.1%で過半数を占める一方、投資を行っている人は46.9%で、投資をしている側に限ってみると、投資金額の平均は1729万円、中央値は500万円と、セカンドライフを意識したまとまった金額を運用していることがうかがえるのですが、投資をしていない層にとって、老後の原資は主に預貯金と年金に限られ、利息がほとんどつかない環境では、お金を増やす余地が小さく、インフレが進めば実質的な購買力が削られるリスクもあります。

    その一方で、投資を行っている層は、値動きリスクを取りながらも、長期的に資産を増やす可能性を持つことになるのですが、一概に投資の有無そのものを「善し悪し」で語ることはできません。

    投資には価格変動リスクがありますし、運用経験やリスク許容度、家計全体の安全資金の確保なども含め考慮しなければならないですし、これらの複数の条件を整えたうえで始める必要もあります。

    重要なのは、「何も知らないまま預金だけに置き続ける」か、「基本的な仕組みを理解したうえで資産配分を考える」かという姿勢の違いだと言える。

    還暦世代が今から見直せるセカンドライフのマネープラン

    長いセカンドライフを見据えたとき、還暦世代に共通して必要になるのは、「自分の土台をきちんと把握したうえで働き方とお金の使い方を決めること」であり、まず、ねんきん定期便や年金ネットなどで将来の年金見込み額を確認し、現在の生活費を項目ごとに書き出すことで、毎月どれくらいの収入があれば安心できるかを把握しておきましょう。

    そのうえで、次のような点を検討することが現実的な一歩になるはずです。

    • 当面の生活費とは別に、医療・介護や住宅修繕などの「もしも」に備える資金をどの程度確保するか
    • 持っている貯蓄をどのペースで取り崩す想定にするか
    • フルタイム・短時間・自営業・ボランティアなど、体力や希望に合った働き方をどう組み合わせるか
    • 投資をすでに行っている場合、リスクをどこまで許容するかを年齢と資産額に合わせて見直すかどうか

    還暦は、過去の働き方や貯蓄状況によってスタートラインが違う世代でもあり、平均余命から見れば、ここから20〜30年の時間があります。

    貯蓄や投資の二極化が進む中、まずは自分の家計の現状を直視し、「働き方」「年金」「手持ち資産」のバランスを整え直すことが、安心して暮らし続けるための共通の課題になっています。

    また、健康状態はセカンドライフの選択肢に大きな影響を与え、長く働き続けることを前提にするのであれば、収入計画と同じくらい、心身のコンディションを保つ工夫も欠かせません。

    老後資金の数字だけにとらわれず、「どのくらい働き、どんな暮らし方を望むのか」という視点から、自分に合ったマネープランを描き直すことが求められてくる時代になってきています。