カテゴリー: 働き方・生きがい

  • 60歳は「引退」ではない時代へ 就業率と貯蓄格差から考えるセカンドライフ

    60歳は「引退」ではない時代へ 就業率と貯蓄格差から考えるセカンドライフ

    60歳を迎えることは、もはや「現役引退」ではなく、人生100年時代の折り返し点になりつつあります。

    最新の公的統計では、日本の人口を100人に置き換えると、65歳以上が29.3人、老齢年金を受け取っている人が27.9人を占めています。

    その一方で、60代前半の男性は8割以上、女性も6割以上が就業していて、「働けるうちは働きたい」と考える人が多く、2026年に還暦を迎える1966年生まれの調査を紐解くと、貯蓄額や投資額の分布にくっきりとした二極化が見えています。


    60歳は「引退」ではなく長いセカンドライフの起点へ

    簡易生命表によれば、60歳時点の平均余命は男性で約24年、女性で約29年となっており、60歳から数えても男性は80代半ば、女性は90歳近くまで生きることが平均的な寿命となり、「定年=余生」という従来の考え方は現実と大きくかけ離れつつあります。

    日本の人口構成を「人口100人」で見たとき、65歳以上は29.3人、そのうち75歳以上が16.8人という数字は、高齢期が社会のごく一部ではなく、大きな塊として存在していることを示していて、老齢年金の受給者は27.9人であり、年金制度が多くの人の家計を支える一方、働いて保険料を納める側も必要となっています。

    同じ100人のうち、仕事についている人は54.8人で、そのうち雇われて働く人が49.5人、自営業者が4.1人とされ、週35時間未満で働く人が18.7人もいることから、フルタイムだけでなく、パートタイムや短時間就業も広く選択されていて、寿命が伸びたことで、60歳以降の期間は「老後」というより「第二の現役期間」として捉え直す必要も出てきています

    還暦世代の就業率が高まる背景と「働けるうちは働きたい」意識

    内閣府の高齢社会白書によれば、労働力人口に占める65歳以上の割合は13.6%と、長期的に上昇傾向が続いており、年齢階級別に就業率を見ると、60〜64歳の男性は84.0%、女性は65.0%が仕事を持っており、還暦を超えてもその多くが働いています。

    こうした数字の背景には、複数の要因が重なっており、ひとつは、公的年金だけでは生活を賄いにくい家計構造の変化で、物価上昇や医療費・介護費の負担増を意識すると、「年金」だけでは賄いきれず、「就労収入」で生活基盤を支えたいという発想になりやすい。

    また、健康状態の改善により60代前半でも体力的に働ける人が増えていることもあり、さらには企業側も人手不足を補うためにシニア層の就業機会を広げています。

    就業意欲に関する調査では、現在収入のある仕事をしている60歳以上のうち、およそ3割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと答えており、「70歳くらいまで」など、より高い年齢までを目安とする回答も含めると、約8割が高齢期にも仕事を続ける意向を持っています。

    収入面だけでなく、社会とのつながりや生きがいを保つうえでも、就労を続けることが重要だと考える人が多い世代でもあり、日本の長寿命を考えると「60歳で定年」というのは早すぎるといってもいいでしょう。

    平均1343万円・中央値300万円に表れる還暦世代の貯蓄二極化

    一方で、同じ還暦世代でも手元資産の状況には大きな差があり、PGF生命が1966年生まれの男女2000人を対象に行った調査では、現時点での貯蓄金額(配偶者がいる場合は夫婦2人分)の平均は1343万円と比較的高額となっているのですが、中央値は300万円にとどまり、分布の偏りが明確に現れています。

    貯蓄額別に見ると、「100万円未満」が31.8%と最も多く、「500万円未満」を合計すると54.3%がこの範囲に入り、その一方で、「2000万円以上」の貯蓄を持つ層も20.1%存在し、還暦時点での備えは「少額〜ほとんどない層」と「十分な資産を保有する層」にはっきりと分かれています。

    この二極化は、老後資金の準備行動や就労スタイルの違いを通じ、セカンドライフの選択肢にも直結し、十分な貯蓄がない場合、年金に上乗せする収入を得るために、長く働き続ける必要性が高まっています。

    その一方で、まとまった資産を保有している世帯は、仕事を続ける理由が収入確保だけではなく、やりがいや社会参加の側面へシフトしやすくなっているようです。

    投資にみ出す層と踏み出さない層でさらに広がる差

    貯蓄に加え、株式や投資信託などの資産運用への関わり方にもはっきりとした違いが見られ、還暦世代のうち、投資を行っていない人は53.1%で過半数を占める一方、投資を行っている人は46.9%で、投資をしている側に限ってみると、投資金額の平均は1729万円、中央値は500万円と、セカンドライフを意識したまとまった金額を運用していることがうかがえるのですが、投資をしていない層にとって、老後の原資は主に預貯金と年金に限られ、利息がほとんどつかない環境では、お金を増やす余地が小さく、インフレが進めば実質的な購買力が削られるリスクもあります。

    その一方で、投資を行っている層は、値動きリスクを取りながらも、長期的に資産を増やす可能性を持つことになるのですが、一概に投資の有無そのものを「善し悪し」で語ることはできません。

    投資には価格変動リスクがありますし、運用経験やリスク許容度、家計全体の安全資金の確保なども含め考慮しなければならないですし、これらの複数の条件を整えたうえで始める必要もあります。

    重要なのは、「何も知らないまま預金だけに置き続ける」か、「基本的な仕組みを理解したうえで資産配分を考える」かという姿勢の違いだと言える。

    還暦世代が今から見直せるセカンドライフのマネープラン

    長いセカンドライフを見据えたとき、還暦世代に共通して必要になるのは、「自分の土台をきちんと把握したうえで働き方とお金の使い方を決めること」であり、まず、ねんきん定期便や年金ネットなどで将来の年金見込み額を確認し、現在の生活費を項目ごとに書き出すことで、毎月どれくらいの収入があれば安心できるかを把握しておきましょう。

    そのうえで、次のような点を検討することが現実的な一歩になるはずです。

    • 当面の生活費とは別に、医療・介護や住宅修繕などの「もしも」に備える資金をどの程度確保するか
    • 持っている貯蓄をどのペースで取り崩す想定にするか
    • フルタイム・短時間・自営業・ボランティアなど、体力や希望に合った働き方をどう組み合わせるか
    • 投資をすでに行っている場合、リスクをどこまで許容するかを年齢と資産額に合わせて見直すかどうか

    還暦は、過去の働き方や貯蓄状況によってスタートラインが違う世代でもあり、平均余命から見れば、ここから20〜30年の時間があります。

    貯蓄や投資の二極化が進む中、まずは自分の家計の現状を直視し、「働き方」「年金」「手持ち資産」のバランスを整え直すことが、安心して暮らし続けるための共通の課題になっています。

    また、健康状態はセカンドライフの選択肢に大きな影響を与え、長く働き続けることを前提にするのであれば、収入計画と同じくらい、心身のコンディションを保つ工夫も欠かせません。

    老後資金の数字だけにとらわれず、「どのくらい働き、どんな暮らし方を望むのか」という視点から、自分に合ったマネープランを描き直すことが求められてくる時代になってきています。

  • 65歳以上の「4人に1人が働く」だけでは見えない現実。60代後半は約2人に1人、70代前半も3人に1人

    65歳以上の「4人に1人が働く」だけでは見えない現実。60代後半は約2人に1人、70代前半も3人に1人

    65歳を過ぎたら仕事を辞め、年金を中心に暮らす。

    かつては、そんな区切りを老後のイメージとして持つ人も少なくありませんでしたし、今もそう思っている若い人も多いかもしれません。

    しかし、年齢別の統計を見ると、65歳以降の働き方は一括りにできないようで、2024年の労働力人口比率は、65~69歳で54.9%、70~74歳で35.6%となっていて、65歳以上全体の数字だけを見るよりも、60代後半と70代前半と分けたほうが、実際の生活に近い姿を想像することができます。

    「65歳以上」でまとめると差が隠れる

    内閣府によれば、2024年の65~69歳の労働力人口比率は54.9%になっていて、単純に言えば、60代後半の約2人に1人が、働いているか、仕事を探している状態となっています。

    さらに70~74歳でも35.6%と、およそ3人に1人が働いているか、職を探していて、さすがに75歳以上になると12.2%まで低下するとはいえ、75歳を過ぎても働く人が一定数いるんです。

    ここで認識しておきたいのは、労働力人口比率と就業率は同じ指標ではないことで、労働力人口比率は働いている人に加えて、仕事を探している失業者も含む割合となっていて、記事や統計表の数字を比べるときは、どの指標を使っているかまでを確認する必要があります。

    就業者の割合は男女差もあり、65~69歳では男性62.8%、女性44.7%、70~74歳では男性43.8%、女性27.3%となっていて、特に男性は、65歳を過ぎても10人中6人以上が仕事をしている計算となります。

    働く理由は「生きがい」だけではない

    高齢者が働く理由について「健康のため」「社会とのつながりのため」だと考えられればいいのですが、実際のところ、内閣府が2024年度に実施した60歳以上を対象とした調査では「収入のため」と答えた人が5割以上も存在しており、これは65歳以上でも同じく「収入のため」が最も多く、そこから年齢が高くなるほど「働くのは体によいから、老化を防ぐから」と答える割合が高くなっていくようです。

    つまり、同じ「65歳以上の就業者」でも、働く目的は一つではなく、生活費を補うために働く人もいれば、体力維持や知識・経験の活用を目的にする人もいます。

    就業率の数字だけでは、働かざるを得ないのか、働きたいのかまでは分かりませんね。

    一方、2019年に実施されたJILPTの「60代の雇用・生活調査」では、60代の就業者が仕事をした理由として「経済上の理由」を挙げた割合が76.4%ととても高く、このうち、経済上の理由を最も主要な理由とした人で、「自分と家族の生活を維持するため」が84.2%を占めています。

    ただし、この調査は2019年時点の60~69歳を対象にしたもので、2024年度の内閣府調査と調査年・対象者・質問形式が異なるため、76.4%を現在の65歳以上全体の割合として扱うことはできませんが、現在の傾向を説明する補助的な資料としてみておくのもいいでしょう。

    働く割合が高くても条件は同じではない

    「65歳以降も働く人が多い」と聞くと、現役時代と同じような働き方を続ける人が増えているように感じるかもしれませんが、雇用条件には年齢差があります。

    内閣府によれば、役員を除く雇用者に占める非正規雇用者の割合は、男性では55~59歳の10.3%から、65~69歳の67.8%へ上昇し、女性も55~59歳の58.1%から、65~69歳では83.2%となっています。

    非正規雇用には、パート・アルバイト、契約社員、嘱託などが含まれ、働いているかどうかだけでなく、勤務日数、労働時間、雇用形態、賃金がどう変わるかまでを見なければ、老後の収入は計算できません。

    また、65歳までの雇用確保措置は企業に義務付けられていますが、70歳までの就業確保措置は努力義務となっています。

    ちなみに内閣府の白書によれば、従業員21人以上の企業で70歳までの就業確保措置を実施済みの割合は31.9%となっています。

    これは、65歳以降も働ける人が多いことと、70歳まで同じ会社で働けることが別の問題であることを示しており、勤務先の制度があるか、定年後に仕事内容や賃金がどう変わるかは、個別に確認しなければなりません。

    老後の計画は年齢ごとに分ける

    老後資金を考えるとき、「65歳から年金生活」と一つの線を引くだけでは、現実とのずれが生じやすくなります。

    65~69歳は働く可能性が高くても、70~74歳ではその割合が下がり、75歳以上ではさらに低下します。

    計画を立てるなら、少なくとも次のように時期を分けて考える方法があります。

    • 65~69歳:継続雇用や再就職を含め、働く場合の収入と勤務条件を確認する。
    • 70~74歳:仕事を続けられる前提にせず、年金・貯蓄だけで生活できるかを確認する。
    • 75歳以降:健康状態や介護などで働けなくなる可能性を考え、就労収入を基本の収入にしない。

    もちろん、年齢だけで働き方が決まるわけではありませんが、健康状態、職種、住んでいる地域、家族構成、住宅費、年金額によって必要な収入は変わってきます。

    高齢者世帯の平均所得は、厚生労働省「国民生活基礎調査」を基にした内閣府白書で304.9万円とされていますが、これは世帯単位の平均値であり、個人の年金額や就労収入を示す数字ではありません。

    「65歳以上の4人に1人」という平均は、日本の高齢者がどの程度働いているかを大まかに知るには役立つのですが、自分や家族の老後を考えるうえでは、65~69歳、70~74歳、75歳以上に分け、働く可能性と働かない場合の収入を別々に見積もることが必要となります。

  • 「年金か投資か」という問い自体が、もう古くなっている

    「年金か投資か」という問い自体が、もう古くなっている

    「年金なんて当てにするな」という言葉を、最近どこかで聞いただろうか。

    YouTubeの投資系チャンネル、SNSのタイムライン、あるいは職場の先輩の一言。

    2020年代に入ってから、この種の言葉は急速に広まり、そしてその言葉を聞くたびに、真面目に保険料を払い続けている人ほど、妙な損をしているような気持ちになる。

    ただ、少し立ち止まって考えてほしいことがある。

    「年金か投資か」という二択は、本当に正しい問いなのだろうか?

    この問いが生まれた背景には、時代の構造的な変化があり、制度が変わったのではなく、制度を取り巻く「空気」が変わった。

    その変化を読み解くことが、これからのキャリアと資産形成を考えるうえで、意外と重要な出発点になる。


    昔の「年金観」制度を疑わなかった時代

    かつて、年金は「会社員人生のゴール」に近い存在だった。

    終身雇用が当たり前の時代、多くの人は同じ会社に定年まで勤め、退職金と年金を受け取り、老後を過ごすというモデルを疑いなく信じていた。

    「年金は国が保証するもの」という感覚が社会全体に共有されており、自分で老後資金を計算する必要すら、あまり感じられなかった。

    1990年代までは、給付水準も比較的高く、現役世代の人口も多かった。

    制度の持続性に対する疑問は、専門家の間でこそ議論されていたが、一般の生活者が日常的に気にするテーマではなかった。

    年金とは「払えば受け取れる、当たり前のもの」だった。


    不信感が生まれた構造的な理由

    その空気が変わり始めたのは、複数の変化が重なったから。

    まず、人口構造の変化。

    少子高齢化の進展により、現役世代が高齢者を支える比率が急激に変わり、1980年代には現役世代約7人で高齢者1人を支えていたとされるが、今では約2人で1人を支える水準に近づいている。

    この数字は、制度の「負荷」が増しているという事実を示している。

    次に、2019年に起きた「老後2000万円問題」。

    金融庁の報告書が発端となり「年金だけでは老後資金が不足する可能性がある」という情報が一気に広まった。

    報告書の内容はあくまで試算だったが「国が公式に認めた」という受け取られ方をされ、社会全体に衝撃を与えた。

    そして、新NISAの登場。

    2024年から始まった新NISAは、政府が国民に「自分で資産形成をしてほしい」というメッセージを制度として体現したものとも読める。

    「自助」を促す制度が整備されたという事実は、「公助」への期待値が変化しているサインでもあり、これらが重なって、「年金への不信感」が生まれた。


    年金破綻論はなぜ広まるのか

    ここで一つ、注意しておきたいことがある。

    「年金破綻」というワードは、非常にバズりやすい。

    不安を煽るコンテンツほどクリックされ、危機感を刺激する動画ほど再生される。これは、SNSやYouTubeのアルゴリズムが生み出す構造的な特性だ。

    「年金は破綻しない」という穏やかな解説動画より「年金なんて当てにするな」という挑発的な動画のほうが、エンゲージメントが高くなりやすい。

    つまり、情報として広まりやすいのは、必ずしも正確なものではなく、感情に刺さるもの。

    実際のところ、日本の年金制度は「破綻」という言葉で表現されるような状況にはなっていない。

    給付水準の調整(マクロ経済スライド)という仕組みが導入されており、「受け取れなくなる」のではなく「受け取る額が変わる可能性がある」というのが、より正確な現状認識に近い。

    ただし、だからといって「今の制度が安泰だ」と楽観するのも違う。変化はゆっくりと、しかし確実に起きている。

    大切なのは、「破綻するかしないか」という二択ではなく、「どの程度、何に頼るか」を自分で設計できるかどうかだ。


    働き方の変化が、年金の意味を変えている

    ここで、見落とされがちな視点を加えたい。

    年金の価値は、働き方によって大きく異なる。

    会社員(特に正社員)が加入する厚生年金は、保険料の半分を会社が負担する仕組みになっている。

    これは、フリーランスや自営業者には存在しない「見えない給与」とも言え、たとえば月収40万円の会社員と月収40万円のフリーランスでは、同じ収入に見えても、厚生年金の保険料負担や将来の給付額に大きな差が生まれる。

    フリーランスが加入できる国民年金は、厚生年金より給付水準が低く、保険料の会社負担もない。

    その分、手取りは増えるが、老後の公的年金は少なくなる。

    この差を自分で埋めるには、相応の資産形成が必要となる。

    つまり「フリーランスと会社員、どちらが得か」という問いへの答えは、年金だけで見れば会社員のほうが有利な構造になっている。

    ただし、それは年金という一つの軸での比較に過ぎず、いま起きているのは「終身雇用×年金」という従来のセットが崩れ、働き方ごとに老後の設計が変わるという構造変化。

    雇用形態の多様化が進むほど、「年金だけ」でも「投資だけ」でも語りきれない時代になっていく。


    これから先に起きうること

    今後の方向性として、いくつかの兆候が見え始めている。

    一つ目は、「長く働く」ことが前提になってきており、65歳以降も働ける環境が整いつつあり、年金の受給開始を遅らせることで受給額を増やす「繰り下げ受給」の活用が注目されている。

    「何歳まで働くか」が年金設計の重要な変数になり始めている。

    二つ目は、資産形成が「一部の意識高い人のもの」ではなくなりつつあること。

    新NISAの普及により、若い世代が投資に触れる機会は増え、これは「自分で老後を設計する」という文化が、少しずつ根付き始めているサインかもしれない。

    三つ目は、年金と投資が「競合するもの」から「補完するもの」として捉えられるようになってきたこと。

    年金はリスクゼロで終身受け取れる「長生きリスクへの保険」、投資はリターンを狙いながら資産を増やす「成長への参加」。

    この二つは役割が異なり、どちらかを選ぶものではなく、どう組み合わせるかを考えるものとして理解される時代がやってきている。

    すでに「年金か投資か」という問い自体が、新しい時代において古くなっているのかもしれない。


    20代で今すべき思考の整理

    「年金は当てにするな」という言葉を聞いたとき、反応は二つに分かれる。

    「じゃあ無視しよう」と切り捨てるか、「じゃあ全部自分でやらなきゃ」と焦るか。

    どちらも、少し極端である。

    より現実的な考え方は、年金を「ベースレイヤー」として位置づけることで、完璧ではないがゼロでもない。

    長生きしても終身で受け取れるという性質は、投資では代替しにくい。

    その上に、NISAやiDeCoを積み重ねることで、老後の土台は分厚くなっていく。

    20代という年齢は、複利の力を最も活かせる時期でもあり、焦る必要はないが「考え始めた今」は遅くない。

    「将来に振り回されたくない」という気持ちは正しい解釈だが、振り回されないためには、情報の量を増やすより、情報を整理する軸を持つほうが先かもしれない。

    時代は変わっている。

    年金の役割も、働き方も、資産形成の選択肢も。

    その変化の中で、「自分はどう設計するか」という問いを持ち始めたこと自体が、すでに一歩先を歩いていることを意味している。

  • 「老後は65歳から」その前提、一度でも疑ったことがありますか?

    「老後は65歳から」その前提、一度でも疑ったことがありますか?

    「65歳から」という地図を、誰かに渡されていた

    ふと、気づいてしまった。

    「老後は65歳から」と、自分はずっと信じていた。疑ったことすら、なかった。 でも考えてみると、その「65」という数字を、自分で選んだ覚えがない。

    誰かに教わったわけでもない。

    でも、気づいたらそれが地図になっていた。

    35歳で「まだ先がある」と思ったのも、50歳で「折り返した」と感じたのも、全部その地図の上の話。


    「65歳」はどこから来たのか

    この数字には、はっきりした出どころがあるんです。

    日本で年金の受給開始年齢が65歳に設定されたのは、制度設計上の都合で、もともとは55歳や60歳だったものが、財政的な理由で段階的に引き上げられてきました。

    ですので「65歳から老後」という感覚は、制度が私たちの意識に刷り込んだものに近いんです。

    つまり、「65歳が節目」というのは、人間の体や心の変化から導き出された数字ではなく、社会の仕組みが先にあって、私たちの感覚がそこに合わせてきたという順番。


    「それが普通」という安心感

    もちろん、節目があることは悪くないことです。

    「65歳までは働いて、その後はゆっくり」という設計図は、多くの人にとって生活を整理する軸になってきていますからね。

    「老後のために貯蓄する」。

    それまでに子どもを育てる、住宅ローンを返し終えるといった全部が「65歳」という終点から逆算されています。

    そのわかりやすさが、社会全体の合意を生んできたことも事実であり、みんなが同じ地図を持っているからこと、話が通じるわけです。

    制度も、会話も、人生の設計も、すべてその地図を前提に動いています。

    でも、「自分の老後」はその地図と一致しているか?

    ここで少しだけ、視点をずらしてみると、「65歳になったら老後が始まる」のではなく、「老後とは何か」を自分で定義したら、その始まりは何歳になるのでしょうね?

    • 体力が落ちてきたと感じたとき?
    • やりたいことがはっきりしたとき?
    • まったく変わらないまま70歳になってしまったとき?

    人によっては、45歳がすでに「老後の始まり」かもしれませんし、60歳で起業した人にとっては、老後などまだ来ていないかもしれない。

    「65歳から」という数字は、制度の都合であって、あなたの人生の速度ではないということだけは認識しておきましょう。

    ある知人の話

    50代前半の知人が、早期退職を選んだ。

    周囲からは「まだ早い」と言われたらしいのですが、彼女は「65歳まで待ったら、やりたいことをやる体力がない」と言っていた。

    実際に彼女は今、農業と陶芸を掛け持ちし、かつてより忙しく、かつてより生き生きして過ごしています。

    制度の地図から外れたわけではなく、ただ「65歳が節目」という他人の設計図を一度手放し、自分の地図を描き直しただけ。


    地図を「疑う」ことと「捨てる」ことは違う

    「65歳から老後」という前提を疑うことは、制度を否定することではありません。

    ただ、その数字が「他の誰かが引いた線」だと知っておくことは、少し違う生き方の可能性を開いてくれます。

    自分がその線をなぞっているのか、それとも意味があって選んでいるのかを、一度だけ確かめてみること。

    あなたにとっての「老後の始まり」は、65歳でなくてもいいのかもしれませんし、あるいは、65歳でいいと、自分で選び直すことができるのかもしれません。

    選択はどちらでもいい。

    ただ、「誰かに渡された地図だった」と気づいていること、それだけでずいぶんこれからの人生が違ってくるはず。