60代・70代の家計は、公的年金という収入の柱に加え、現役時代に築いた貯蓄をどう組み合わせるかで安定度が変わってきます。
同じ年金額でも、介護保険料や医療保険料、住民税などの天引き額によって、手元に残るお金は大きく違ってきますし、65歳以上が受け取れる公的給付金の中には、条件を満たしていても自分から申請しなければ1円も受け取れないものが複数あります。
ここでは、60代夫婦世帯の平均貯蓄額や介護保険料の水準を押さえつつ、加給年金や年金生活者支援給付金など「年金に上乗せされるお金」と、再就職手当・高年齢雇用継続給付・高年齢求職者給付金といった「雇用保険から受け取れるお金」を確認しておきましょう。
60代夫婦世帯の貯蓄と「額面」と「手取り」のギャップ
金融経済教育推進機構(J-FLEC)の家計調査によれば、60代・二人以上世帯の金融資産保有額は平均2683万円で、中央値1400万円。
2000万円以上を持つ世帯が4割近くある一方で、貯蓄がない世帯も1割強あり、老後資金の状況には大きなばらつきがあります。
平均値が一部の高資産世帯に引き上げられていることを踏まえると、多くの世帯にとって実感に近い水準は中央値の1400万円前後といえます。
老後の家計は、こうした貯蓄と公的年金を組み合わせて成り立ちますが、年金の通知書に記載された「支給額」と、実際の振込額には大きな差があり、介護保険料や医療保険料、住民税などが天引きされてから口座に振り込まれる金額は驚くほど少なく感じるはず。
この差額がどの保険料や税金なのかを把握していないと「思っていたより少ない」で終わってしまいますし、家計全体の見通しを立てにくくなります。
老後資金を考えるうえで大切なのは、年金の額面だけを見ないことで、社会保険料や税金を差し引いた手取り額をもとに家計を考え、あわせて、条件を満たせば受け取れる給付金や負担を軽減できる制度がないかも確認しておきたいところです。
そうすると、額面だけではわからない実際の家計が見えやすくなります。
65歳以上が申請で増やせる2つの「年金上乗せ」
老齢年金の受給が始まったあとも、条件によっては「年金に上乗せされるお金」を受け取ることができます。
その代表的なのが「加給年金」と「年金生活者支援給付金」で、いずれも自動的に支給されるわけではなく、条件を満たしていても自ら申請しなければ受け取ることはできません。
「加給年金」は、厚生年金に20年以上加入していた人が、65歳到達時点などで「年下の配偶者」や「一定の年齢・条件までの子ども」を扶養している場合に、老齢厚生年金へ上乗せされる仕組みで、配偶者分の加給年金額は2026年度で年24万3800円。
1人目・2人目の子どもにも同額、3人目以降の子どもには年8万1300円が加算されます。
さらに、生年月日に応じて3万6000円から17万9900円の特別加算が配偶者分に上乗せされ、昭和18年4月2日以後生まれの人では年17万9900円と最も手厚くなっています。
ただし、配偶者が老齢厚生年金(加入期間20年以上)や退職共済年金の受給権を持っている場合、あるいは障害年金等を受給している場合には、配偶者加給年金額が支給停止されます。
実際に受け取っていなくても、受給権があれば停止の対象となり、また、配偶者が65歳になると加給年金は終了しますが、要件を満たせば、配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」として引き継がれる仕組みもあります。
年齢差がある夫婦ほど受け取れる総額が大きくなりやすく、その分、申請漏れの影響も大きくなります。
もう一つの年金上乗せが「老齢年金生活者支援給付金」で、これは老齢基礎年金の受給者のうち、所得や世帯の状況が一定基準以下にある人の生活を底上げするための給付金で、年金本体とは別の法律に基づいて支給されます。
対象となるのは、65歳以上で老齢基礎年金を受給していること、同じ世帯の全員が市町村民税非課税であること、前年の公的年金等収入とその他所得の合計が定められた上限を下回っていることなど、複数の条件をすべて満たす人。
2026年度の老齢年金生活者支援給付金の基準額は月5620円で、前年度から3.2%増額されていて、この基準額をもとに、保険料納付済期間と免除期間に応じて給付額が計算されます。
保険料納付済期間については「5620円×納付済月数÷480」、免除期間については別途定められた額を用いて計算し、対象世帯には緑色や薄緑色、薄橙色の封筒が届くことがあるため、届いた場合は中身を確認しておく必要があります。
60歳以降の就労で活用できる3つの雇用保険給付
長寿化が進むなか、65歳前後の就業率は男性・女性ともに高い水準にあり、60歳以降は賃金水準が下がるケースも多く、公的年金と就労収入、雇用保険の給付をどう組み合わせるかが老後の生活を左右します。
1つ目は再就職手当で、失業から再就職、あるいは事業開始までの期間が短いほど支給額が大きくなるよう設計された手当で、雇用保険の基本手当を受給する資格がある65歳未満が対象で、雇用保険の被保険者として再就職する、または自ら事業主となって被保険者を雇用するなどの条件を満たし、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っている場合に支給されます。
支給残日数が所定給付日数の3分の1以上なら残日数の60%、3分の2以上なら残日数の70%が支給率の目安です。
再就職後6カ月以上継続して働き、再就職先での賃金が離職前より少ない場合には、「就業促進定着手当」が別途支給される仕組みもあります。
2つ目は高年齢雇用継続給付で、60歳以上65歳未満で、雇用保険の被保険者期間が通算5年以上ある人が対象となります。
60歳到達時と比べて賃金が75%未満に下がった状態で働き続ける場合、条件を満たせば賃金の一定割合が給付され、2025年4月1日以降に支給要件を満たした人の給付率は原則として賃金の10%が上限で、2025年3月31日以前に要件を満たしていた場合は15%が上限となります。
老齢年金を受給しながら厚生年金に加入してこの給付を受ける場合には、在職による年金の支給停止に加え、標準報酬月額の一部(最大4%または6%)に相当する金額も支給停止の対象となります。
年金と給付金を同時に受ける場合は、この関係も確認が必要です。
3つ目は高年齢求職者給付金で、65歳以上で雇用保険に加入していた人が失業した際に支給される給付金で、「高年齢被保険者」が対象となります。
離職日前の1年間に被保険者期間が通算6カ月以上あること、就職する意思と能力があり、積極的に求職活動をしているにもかかわらず就職できない状態であることなどが条件となっていて、被保険者だった期間が1年未満の場合は基本手当の日額の30日分、1年以上の場合は50日分が一括で支給されます。65歳未満の失業手当は4週間ごとの認定を経て分割支給されるため、受け取り方が異なります。生活設計では支給時期と金額も確認しておく必要があります。
介護保険料6225円と年金からの天引き条件
65歳以上になると、介護保険料の負担が発生し、厚生労働省が取りまとめた第9期(令和6年度〜令和8年度)の介護保険事業計画では、第1号被保険者(65歳以上)が負担する介護保険料の全国加重平均が月6225円と公表されています。
前期にあたる第8期の月6014円から211円、率にして約3.5%の増加で、月額を12カ月分に換算すると年間7万4700円となり、第8期の年間7万2168円との差額は2532円です。
ここで注意したいのは、6225円が「令和8年度の単年度額」ではないこと。
令和6年度から令和8年度までをひとまとめにした計画期間の全国加重平均となっており、実際の負担額は居住する市区町村が定める保険料と、本人および世帯の所得段階によって決まるため、同じ年金額でも住む自治体によって月々の保険料は変わってきます。
介護保険料が年金から天引きされるかどうかは、日本年金機構が示す条件によって決まります。
介護保険料の場合、対象は65歳以上で、老齢・退職・障害・死亡を支給事由とする公的年金を受給しており、年間の受給額が18万円以上ある人で、国民健康保険料(税)や後期高齢者医療保険料、住民税および森林環境税についても、65歳以上で年間の年金受給額が18万円以上という条件が共通しています。
さらに、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料は、介護保険料と合計した金額が年金額の2分の1を超えない場合に限り、年金から特別徴収(天引き)されます。
負担が重い人ほど天引きの対象から外れ、納付書や口座振替で別途納める形になる仕組みで、天引きされていないからといって支払い義務がなくなるわけではありません。
振込通知書の内訳とあわせて、自治体から届く納付書も確認しておく必要があります。
老後資金を「手取り」で考えるための確認ポイント
60代以降の家計では、同世代の平均や中央値と比べて自分の貯蓄・収入が多いか少ないかだけでなく、「手取りベースで何年分の生活費を用意できているか」という視点が必要です。
そのためには、年金の支給額だけでなく、差し引かれる介護保険料や医療保険料、住民税なども把握しておかなければなりません。
年金の振込通知書を見ながら「どの保険料・税金がどれくらい差し引かれているか」を確認しておくと、毎月の固定支出も見えやすくなります。
一方、条件を満たしていれば受け取れる可能性があるお金もあり、加給年金や振替加算は、厚生年金加入期間や夫婦の年齢差、配偶者の年金受給権の有無によって受給の可否と金額が変わります。
年金生活者支援給付金では、世帯全員が住民税非課税かどうかや、前年の年金・所得水準がカギになります。
就労を続けるなら、再就職手当や高年齢雇用継続給付、高年齢求職者給付金など、雇用保険の給付条件も確認しておきたいところで、退職や再就職のタイミングを考える際の判断材料になります。
こうした制度は、「対象になれば自動的にすべての案内が届く」とは限らず、年齢到達、退職、再就職、配偶者の年齢が節目を迎えたときなどに、年金事務所やハローワーク、市区町村窓口へ「自分に関係する制度があるか」を問い合わせることも、申請漏れを防ぐ方法の一つとなります。
老後資金を見るときは、平均値や一般論だけでは実際の家計はわかりません。
年金から何が差し引かれ、手元にいくら残るのか。そのうえで利用できる制度があるのか。
自分の数字に置き換えて確認することが、現実的な老後資金の把握につながります。
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